大阪・読売新聞《泉》より

『せいたかあわだち草』のお話
=読売新聞大阪本社提供=

 =亡き兄の好きだった曲= 1996. 4. 3


「亡くなった兄が好きだった、あの曲を探して」。和歌山市の橋本光代さん(30)からこんなファクスが届きました。それは、澄んだ声で歌う「みずいろの雨」が大ヒットしたシンガー・ソングライター、八神純子さんのデビュー当時のアルバムにあった「・・・・・草」という歌だそうです。

『スローな歌で、兄がとても気に入っていたと、記憶しています。鹿児島で育った私が12年前、就職で関西へ出る際、その曲が入ったテープを兄からもらいましたが、引っ越しを重ねているうちに紛失してしまいました。先日、その兄が交通事故で、亡くなったのです』

お兄さんは古里でトラック運転手をなさっていました。3月19日、岡山県内で事故に遭い、46歳で帰らぬ人に。橋本さんは12年間、お兄さんと会っていないのが心残りでした。

『・・・・・草というだけで曲名が思い出せません。私をとてもかわいがり、優しかった兄の好きだった歌をもう一度聴きたいのですが』

早速、「泉」の記者が八神さんのプロダクションに問い合わせてみると、アルバムは1978年の「思い出は美しすぎて」で、お探しの曲は「せいたかあわだち草」とわかりました。「今も手に入りますか」と尋ねると、3月21日にテイチクから同じアルバムの復刻版が発売されたばかりだというのです。
びっくりされたのは橋本さんでした。

『えーっ。21日は兄の告別式だったんです。同じ日に復刻版が出るとは・・・・。曲を聴きながら、兄の思い出をゆっくりと振り返りたいと思います』

記者もほっとしました。歌を聴いてみると、優しかったお兄さんの人柄がしのばれるようですね。しっとりとした、いい曲です。


 =八神さんから追悼の言葉= 1996. 4. 7


八神純子さんの曲が好きだったお兄さんを事故で亡くしたという和歌山市の橋本光代さん(30)のお便りを先日紹介しました。
一番のお気に入りは、1978年のアルバム「思い出は美しすぎて」の中の「せいたかあわだち草」という曲でしたよね。
実は、八神さんから、その曲の思い出をメッセージで寄せて頂いたのです。

『高校時代、学校帰りに駅前の空き地で見かけた”せいたかあわだち草”が、夕陽にゆれて黄色く輝いているのがとても印象的で、あんなつまらない空き地を、私にとって、とてもステキな空間に変えてくれたことがありました。
この曲は当時、とても可愛がって下さっていたプロダクションの社長と、その時にはまだ元気だった祖父のために書いた曲で、「彼らの長命を祈って」という意味の作品でした』


歌詞への思いを聞いてみると、なるほど、そう思わせる曲ですよね。作詞、作曲は八神さんです。
♪〜 せいたかあわだち草の まぶしい輝きは あなたのまなざしそのものです 眠りにつく前に ひとつ祈って下さい 明日もまた二人が 逢えるように 〜♪
八神さんは86年、イギリス人の音楽プロデューサー(ジョン・スタンレー氏)と結婚、ロスに移り住んで2児の母。子育ての傍らも、ずっと音楽活動を続けておられました。昨年から本格的にステージに復帰。国内7か所でディナーショーを開き、近々、新アルバムのレコーディングをされるそうです。
復刻された「思い出は・・・・」はデビューアルバム。文字通り、1曲1曲に思い出がいっぱいのはずなのです。

『悲しみはさぞかし深いものでしょう。お兄様の分も強く生きていって下さい。』

八神さんは最後にこう結んでおられました。


 =八神さんの曲に兄しのぶ= 1996. 4.10


亡き兄が好きだった八神純子さんの「せいたかあわだち草」をもう一度聴きたい、と言っていた和歌山市の橋本光代さん(30)から再びお手紙が届きました。
お兄さんの告別式の日、偶然にもこの曲を納めたアルバムが復刻されたことを橋本さんにお伝えしたところ、早速レコード店に注文して、毎日聴いておられるそうです。

『10数年ぶりに聴くアルバムは私の探していた曲そのものでした。八神さんの透き通った美しい声に懐かしさと、兄との思い出がよみがえり、涙が出ました。
「せいたかあわだち草」は私の思いを代弁しているかのようです。短い歌詞ですが、八神さんの思いが伝わってきます。こんなに素直に自分の心を表した歌に出会ったのは初めてです。歌と一緒に兄が戻ってきたようで、少しだけ前向きな気持ちになれました』


橋本さんは、せいたかあわだち草の黄色い花が咲くころ、お兄さんが亡くなった岡山県の事故現場で八神さんの曲を流しながら、その花を手向けられたらと、望んでおられます。

『独身の頃、趣味でよく詩を書いていました。これを機会に、兄への思いを詩に残していこうと思います。兄との大切な思い出を忘れないために、いつか悲しみを乗り越えられた時に懐かしく読めるように。その時、きっとこの曲も涙なしで聴けるはずです。
八神さんにお伝えしてほしいのです。兄が好きだった歌を私も好きになりました。歌詞の意味も悲しいほど、心に響きます。できれば、これからもずっと歌い続けて下さい・・・・』


八神さんは最近、本格的に音楽活動を再開されました。お兄さんもきっと、喜んでおられるでしょう。ご冥福をお祈りします。


《 この記事は、読売新聞大阪本社の提供で記載いたしました。転載はご遠慮下さい。》


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